障害を持つ方の“バリアフリー住宅”にこだわる名古屋の設計事務所です。 車いす利用者の方、全身性障害の方の、より良い住まいを一緒に考えます。

名古屋市南区のAさん邸 ~新築分譲マンションをリフォーム~

名古屋市南区のAさん邸

~新築分譲マンションをリフォーム~

今回は名古屋市にお住まいのAさん宅にお邪魔しました。Aさんは新婚ほやほやで、旦那さん(いわゆる健常者の方)と新築のマンションに二人で暮らしています。 Aさんは脊髄性筋萎縮症のⅡ型で、上肢にも障害があり、生活のほとんどに介助が必要です。平日は授産施設で働いています。外でも家の中でも電動車いすを使用して生活されています。

どん:いやぁ、素敵なマンションですね。

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マンションエントランス

Aさん(以下、A):ありがとうございます。このマンションを購入するまでには紆余曲折がありました。まだ結婚する前、付き合いだして2年ほど経った頃ですが、 夫が一人暮らしをすることになって、私が電動車いすのまま遊びに行けるアパートを探したんですが、なかなか良い物件が見つからず、結局満足のいくところを借りることができませんでした。 その頃から徐々に結婚を意識し始め、今度はちゃんと一緒に住める場所を探そうということになりました。このマンションを購入する2年ほど前のことでした。 最初は民間の賃貸物件や、市営住宅などを探していたのですが、電動車いすのまま入れる、駅から近い、などの条件を満たす物件に出会うことができずにいました。 それで選択肢を新築マンション購入というところまで広げて探したところ、条件に合ったこの物件に巡り会いました。

どん:なるほど。家賃と毎月のローンの返済額を比べると、購入してもあまり変わらない場合がありますよね。

A:そうなんです。ただ長いローン生活が始まってしまいましたが…。契約時はまだマンション工事も始まっていなくて、細かい設計の変更ができるということで、共用部分の使い勝手など、 私でも使いやすいように変更してくれるということで、この物件に決めました。

どん:良いタイミングでしたね。予算が変わらない程度の変更なら、マンション販売会社も売るためにそれくらいのことはしてくれるでしょう。

A:道路からのアプローチですが、このマンションのエントランスホールまでは階段が5段あり、車いすでは行けません。でもすぐ横に駐輪場用の出入口があり、 そこなら段差なくエントランスホールや自室まで車いすでアプローチできます。

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駐輪場のサービスエントランス

どん:駐輪場の出入口も自動ドアなんですね。これなら車いすでも出入りしやすいですね。

A:道路からどのように自室まで行くかは、購入前にマンション販売会社と念入りに打合せをしました。駐輪場の出入口は鍵が掛かっているのですが、 鍵の位置を私が一番使いやすい位置に変更してもらったので、一人でマンション内に入ることができます。エントランスホールまではスロープで繋がっています。

どん:最近のマンションは「バリアフリー」を売り文句にするくらいですからね。一昔前とはずいぶんと時代が変わったものです。

A:このマンションは全戸バリアフリー仕様になっています。といっても玄関には少し段差があるのですが。

どん:それでは玄関を見せて下さい。

A:玄関ドアには電動でドアの開け閉めと鍵の施錠のできるものを付けました。

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玄関(ドア上部にドアオペレーター)

どん:これはアブロイのニュータイプ[*1]のドアオペレーターですね。

[*1]アブロイのニュータイプ
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A:以前は一種類しかなかったそうなんですが、新しい商品では屋外用と屋内用の二種類になり、屋外用は以前のものより価格が高くなってしまいました。

どん:以前より約9万円高くなりましたね……。

A:名古屋市の障害者住宅改造補助金の上限である80万円以内で工事金額を収めたかったので、屋内用が使えないかを考えました。

どん:屋内用は逆に以前のものより約4万円安くなっています。でも屋内用はパワーが屋外用よりも弱く、玄関で使うにはリスクがありますね。

A:リスクは承知の上で屋内用を取り付けることにしました。今のところ問題はありませんが、キッチンの換気扇を強めにしていたり、強風が吹いていると開かないことがあります。

どん:締め切った部屋で換気扇を回すと、部屋の空気が換気扇に吸い込まれ、玄関ドアに引っ張る力が働いて、ドアが開かなくなるんですね。

A:ドアを開ける時は換気扇を弱めれば良いと分かっているので、そんなに問題ではありませんが。

どん:玄関の段差はスロープで解消されています。

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玄関の段差はスロープで解消

A:大理石の上がり框があったんですが、それを撤去しスロープとしました。段差が4cm程度だったのでスロープは短か目です。

どん:それでは水回りですが。廊下に面して大きな引き戸がありますね。

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脱衣室の引き戸

A:幅は約2mあります。その引き戸を引くと脱衣室があります。

どん:これは広い脱衣室[*2]ですね。

[*2] 広い脱衣室
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A:電動車いすで入って、介助者が一人いても、まだ余裕があります。元々約半帖の物入があったのですが、購入して一度も使わないまま壊しました。 またトイレの前の空間も脱衣室として取り込んだ結果、とても広い空間になりました。

どん:およそ3帖あります。そしてなんと言ってもこの広い引き戸が一段と広さを活かしていますね。

A:引き戸を全部引き込めば、空間が廊下と一体となり脱衣場への行き来がとてもしやすいです。入浴後はこの戸を閉めれば湯冷めせず着替えができます。 また車いすの友達が来た時も、この大きな引き戸を閉めれば、トイレのドアは開けっ放しにできるので、使いやすいと好評です。

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脱衣室(浴室とトイレのドアが見える)

どん:廊下ですが、一般的なマンションより10cm程度広くなっています(有効幅約90cm)。

A:このマンションの売り文句になってました。扉のドアノブも廊下側に出っ張っていないので、電動車いすに買い物袋をぶら下げていても引っかかることがありません。 スイッチの高さも最初から低めになっていました。

どん:最近のマンションは良いですね。トイレも浴室も段差はないですし。もちろん部屋にも段差はありません。それではキッチンを見せて下さい。

A:洗面台は使いにくいので、私は洗面台の代わりにキッチンのシンクを使っています。

どん:最近のキッチンは背が高いですが大丈夫でしたか?(高さ90cm)

A:契約前に内部を見せてもらったのですが、シンクの下には引き出しがあり、実際に車いすで使うことができるか分からない状態でした。 最初はもったいないけど、キッチンを作り替えようかとも思いましたが、実際にシンク下の引き出しを外し、車いすの前輪が当たるところを撤去し、 邪魔なものを取り外したところ、ぴったりの高さだったので、このキッチンのまま使うことに決めました。

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キッチン(車いすで近づけるように改造)

どん:水栓には自助具が付いてますね。

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シングルレバーに自助具を付けて利用

A:手を伸ばすことが難しいので、手元で操作できるようにアルミ材で取っ手を作ってもらいました。しかし、実際に使ってみると取っ手の重さで勝手にレバーが下がり、 水が止まってしまうので、工事後に大工さんに来てもらって直してもらいました。

どん:この穴がたくさん開いているのは軽量化のためだったんですね。よく見ると取っ手の一番奥におもりが付いていてバランサーの役目をしています。

A:このように改良してからは問題なく使えています。

どん:リフォームは工事をしたらそれで終わり、ではなく、実際に生活してみて、使いにくい所を改良していくことがとても重要です。そういうちょっとしたことを、 嫌がらずに面倒見てくれる大工さんはうれしいですね。他に改造したところを教えて下さい。

A:テラスに出られるように、スロープを付けてもらいました。

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テラスへ出るためのスロープ

どん:テラスがとても広いので、スロープで対応できた訳ですね。これだけ広いと外でランチなんて食べてみたくなりますね。今日はどうもありがとうございました。

Aさんのお宅は閑静な住宅街に建つ、デザイナーズマンションのような、おしゃれな新築マンションでした。授産施設に通いやすく、 駅からも近いという立地条件が一番の決め手だったそうです。脱衣室のリフォームは図面を見て、物入を取り壊して脱衣室を広くしよう、と最初から考えていたそうです。 まだ住んでいない新築のマンションをリフォームするということで、できるだけ新築同様になるようにと、床フローリングや壁・天井のビニールクロスも 同じメーカーの同じ型番のものを使用し、どこをリフォームしたか分からないほど違和感なく馴染んでいます。 新婚生活をこんな素敵な住まいで過ごせるなんて、みんなに羨ましがられること必至、なAさん邸でした。

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