障害を持つ方の“バリアフリー住宅”にこだわる名古屋の設計事務所です。 車いす利用者の方、全身性障害の方の、より良い住まいを一緒に考えます。

岐阜県岐阜市のNさん邸 ~公営住宅のリフォーム~

岐阜県岐阜市のNさん邸

~公営住宅のリフォーム~

今回は岐阜市にお住まいのNさん宅にお邪魔しました。Nさんは先天性骨形成不全症で、外出用と室内用の手動車いすを使い分けて生活されています。介助はほとんど必要ありません。平日は会社で働かれています。以前から民間のアパートで一人暮らしをされていたのですが、公営住宅の抽選に当たり、今の住まいに引っ越されました。(2004年8月の記事)

どん:お邪魔します。まず玄関ですが。

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引き戸の玄関扉。公営住宅ならではの仕様。

Nさん(以下、N):玄関戸は元々引き戸でした。ただ開けると自動的に閉まってくるので、開けっ放しにする際は、壁に取り付けたカーテンフックにゴムひもを引っかけて[*1]止めています。

[*1]カーテンフックにゴムひもを引っかけて:
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どん:玄関と室内には10cm程度の段差が残ったままですね。

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内部から玄関を見る。ここで屋外用車いすから
室内用車いすに乗り換える。

N:玄関で1段高いところにある室内用の車いすに乗り移るのですが、これくらいの段差は私にとってはあまり支障がないのでそのままにしました。

どん:乗り換え時に10cmの段差をクリアする訳ですね。玄関の奥行きが90cmしかありませんが、Nさんの車いすがコンパクトなのでピッタリ入ってしまいます。それでは玄関を上がってダイニングキッチン(DK)ですが。

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玄関からDKを見る

N:DKの床は最初からフローリングでした。この住宅は高齢者向けということで室内には元々段差はありません。ただ流し台だけは車いすで使うには高すぎたので低くすることにしました(元の高さ85cm)。

どん:初期の設計では既存の流し台の幕板を切って[*2]低くするはずだったんですよね。

[*2]流し台の幕板を切って:
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※幕板とは扉と床の間にある高さを調節するための板

N:「退居の際、元の状態に戻す」というのが改造の条件だったので、最終的には既存の流し台はそのまま取り外して実家の倉庫に保管し、新たに購入した流し台の幕板を切ることで高さを調整することになりました。

どん:最終的な流し台の高さは72.5cmです。12.5cm下がった訳ですね。シンク(流し)の下に車いすが入るようにはしてませんね?

N:私は車いすをシンクに横付けして流し台を使うので、そのままで大丈夫でした。

どん:他に工夫した点はありますか?

N:蛇口が高い位置に付いていて吐水レバーに手が届かなかったので、壁付きの蛇口に変更し[*3]、低い位置に付けてもらいました。ただ吐水レバーが低くても、蛇口の先端まで低いと、深鍋を洗う時やポットに水を注ぐ時に使いづらいので、「吐水レバーは低く、蛇口の先端はできるだけ高く」とお願いしてこの製品を選んでもらいました(三栄水栓:K27D)。あと、水切り棚の位置が高いのでホームセンターで買ってきた棚をその下に付けました。

[*3]壁付きの蛇口に変更し:
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変更前

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変更後

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どん:ガス台も流し台と同じ分だけ低くなっていますね(高さ54.5cm)。

N:火が顔に近いと怖いので低くしてもらいました。ガスコンロも魚焼きグリルの付いていない平べったいタイプを選んで、より低くしています。低いことで深鍋でも中身が見やすくなりました。換気扇はフード上にスイッチがあり車いすでは手が届かないので、換気扇のコンセントを、リモコンでオンオフができる商品に繋ぎ、リモコン操作できるように改造しました(オーム電機:リモコンコンセントIRP-8)。

どん:キャスター付きの調理台がありますね。

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キャスター付き調理台

N:大工さんに作ってもらいました(35,000円程度)。調理台としてはもちろんのこと、ガスコンロから熱いヤカンを運んだり、重い鍋を運んだりにも使えます。天板にはステンレスが張ってあり、熱い鍋をそのまま置いても大丈夫です。高さはガス台に合わせてあります(高さ 54.5cm)。足が入って調理に使いやすい高さです。

どん:次に洗面室と浴室、トイレですが。

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洗面室

N:洗面台ですが、鏡の位置が高く顔が映らないので位置を下げたい。でも壁には穴を開けたくない。そこで鏡が付いていた穴を利用して木の板を張り、その板に鏡を取り付けました。この方法なら新たに穴を開ける必要がありません。あと、洗面台の下の扉を外して、車いすのステップが入るようにしました。浴室はスノコ(ヤザキ:ライトボードすのこ)を入れました。必要最小限の面だけ作って、スノコを取りやすくしました。浴室も穴を開けられないので、吸盤式のシャワーフック(三栄水栓:PS30-35)を使いやすい位置に付けたのですが、吸盤がよく外れるし角度もいまいちです。トイレは最初から引き戸で、手すりも付いていたので、何もいじっていません。

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浴室。できるだけ軽いスノコをチョイス。

どん:最後に寝室とベランダですが。

N:寝室はタタミ敷きだったのですが、フローリングに変更しました。ベランダも木製のスノコで床上げをし、寝室と同じ高さにしました。アルミサッシの敷居部分がどうしてもフラットにならないのですが、私の車いすは前輪の径が大きいので、何とか行き来できます。ふとんなどの重い物を運ぶ時はさすがに危ないので、アルミの渡し板を敷居に被せて使います。

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寝室は元々畳敷きだったところをフリーリングに変更

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ベランダはスノコで床上げ

どん:他に工夫しているところはありますか?

N:家具はできるだけキャスターの付いた動かせるものを選んでます。あと福祉用具ですがリーチャーを使っています(相模ゴム工業:マジックハンド・ピストル型)。これがあれば高い場所に洋服を掛けたり、床に落ちたものも楽に拾うことができます。

どん:利用した制度を教えてください。

N:私が使ったのは岐阜市の「重度身体障害者住宅改造促進助成制度」というもので最高70万円まで助成されます(所得により自己負担あり)。また岐阜市の日常生活用具には「居宅生活動作補助用具」というものがあり(給付限度額は20万円)、私の場合は寝室の床とベランダ床上げは居宅生活動作補助用具、浴室スノコは入浴補助用具、その他は住宅改造助成金と振り分けられました。

どん:助成金支給までの流れはどうでしたか?

N:障害福祉室の担当者が実際に現地に見に来たり、住宅を管理している部署に住宅改善承諾書をもらったりと慣れないことだらけで大変でしたが、申請書を出してからは順調に進みました。事前に障害福祉室に説明を聞きに行ってから、申請・現地調査に至るまで約3週間、工事には約2週間かかりました。結果的に「こうしたい」と思ったことはほとんどすべてやれたので満足しています。

どん:今日はどうもありがとうございました。

公営住宅の高齢者対応ということで、車いすの人にとっても使いやすいかと思ったら、玄関の段差、タタミの部屋、流し台の高さなど、ほとんどの車いすの人にとっては、そのまま住むには難しいと感じました。Nさんの場合は問題になりませんでしたが、せめて玄関の段差だけでも無ければその後のリフォームも楽なのに、と思いました。キャスター付きの調理台はNさんからの提案で、「こういうものがあったら便利なのになぁ」という声を現実にしたものです。市販品では見つからない、寸法が合わないモノは、一点モノとして作ってもらうという選択肢があることを再認識させられました。

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