障害を持つ方の“バリアフリー住宅”にこだわる名古屋の設計事務所です。 車いす利用者の方、全身性障害の方の、より良い住まいを一緒に考えます。

名古屋市近郊のAさん邸 ~車いす利用者の新築住宅~ その1

名古屋市近郊のAさん邸

~車いす利用者の新築住宅~ その1

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今回はいつもとは趣向を変えまして、「建築士・設計士ってどんなことをするの?」、 「建築士に設計監理を頼むってどういうこと?」という問いに、実際の設計手順を通して知って頂こうと思います。建て主は名古屋近郊に住むAさん家族。 ご夫婦とお子さん1人の3人家族です。旦那さんは足に少し障害がありますが歩行可能、 奥様は手動車いすと杖を併用して生活されています。今回住まいを建てるにあたり、 僕に設計を依頼してくれました。それでは実際にどのように設計が行われていったのかを お話ししましょう。

→実際の建物とインタビューはこちら

顔合わせから基本設計まで

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一番最初にお話を伺ったのは2005年の11月でした。新しい家でどのように生活していきたいかを雑談を交え、お話を聞きました。建物はバリアフリーで、 生活は1階がメイン、食事は椅子に座りテーブルで食べたいが、リビングでは床でくつろぎたい。明るい家にしたい、自然素材を使いたい、などが最初の要望でした。それから2ヶ月ほどエスキース(おおまかなプラン)作成に時間をもらいました。

1月下旬に1回目の打合せとなりました。持っていった第1案を見ながら打合せをしました。玄関に入ってからリビングまでの動きをもっとシンプルにしたい、車いすは玄関で外乗りから家用に乗り換える予定、浴室は子どもと一緒に入れるくらいの広さ、洗面脱衣室は今住んでいる賃貸マンションより少し広い程度で良い、などと言われました。また外まわりでは、駐車場に屋根がほしい、 庭に降りるためのスロープがほしい、などの要望が出ました。

2回目の打合せは1ヶ月後の2月下旬。以前設計したバリアフリー住宅を見学し、その後、 前回の打合せの要望を反映させた第2案を見てもらいました。その打合せの時にAさんから細かな要望を箇条書きにしたものを頂きました。主なものでは階段昇降機を付けるので階段を広めにしたい、 玄関スロープにも屋根がほしい、寝室の収納スペースをもう少し大きくしたい、床の間をやめ、 代わりに上部は押入で下部は座卓のようなものにしたい、などの要望がありました。 また主寝室からトイレに行きやすくしたいとの要望も話の中で出てきました。

このように設計とはその時々により様々な要望が出てきます。それを建て主と一緒に考え、 優先順位を決め、取捨選択し、現実的なものに組み立てていきます。具体的な要望により、 時には設計の方向がブレる(細かなことにとらわれ、本筋を見失ってしまう)ことがありますが、打合せを重ね、優先すべき事がお互いに理解できてくると、 明確な方向性が見え始めてきます。

3回目の打合せは2週間後。この頃から打合せは月に2回程度の定期的なものになりました。 この第3案で、かなりイメージが固まってきました。玄関に靴履き替え用のベンチがほしい、 キッチンの形状にはこだわらないので、できるだけ動きが少ないプランにしたいと要望が出ました。 また廊下の幅を車いすで動きやすいように、リビングを削ってでも、もう少し広くしたいとのことでした。

第4案では廊下を広くし、キッチンの配置をコの字型にした案を提示しました。この頃、 自治体に住宅改修の助成金について話を聞きに行きました。しかし新築には助成金が出ないということで、 今回は利用できませんでした。また毎年ポートメッセなごやで催されるウェルフェアに行き、 階段昇降機についてメーカーの担当者に詳しい話を聞き、購入選択の目安にしました。 そして6月上旬にTOTOとINAXのショールームへ浴槽を見に行きました。浴槽の理想的な大きさ、 深さなどを検討し、浴槽の中は段のないシンプルなものが良い、浴槽内の手すり(グリップ)が思いのほか使いやすいことが分かりました。6月下旬には基本設計がほぼ固まりました。 基本設計とは、部屋の間取りや建物の高さなどの基本構成をまとめ、これから行う実施設計の下地となる設計のことです。 打合せはここまでで9回を数えました。

実施設計、相見積もり

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7月からは実施設計に入りました。実施設計とは実際に工事に使う図面で、A2サイズ (A4サイズの4倍の大きさ)の図面が30枚ほどになりました。一般的に2階建ての住宅だと これくらいの図面枚数が最低限必要になります。実施設計ではミリ単位の細かな寸法や、 実際に使う材料や、使用する製品の品番など、かなり細かなことまで図面に書き込んでいきます。 例えば便器はどこのメーカーのどんな製品か、洗面台は、浴槽は、タイルは、手すりは、などなど、 あらゆるものの品番を決めていきます。設計士にはこういった買い物のアドバイスをするという側面もあります。 この期間中も、建て主との月に2回程度の打合せは続きました。こうして細かく決めることで、 どこの施工業者に見積もりをお願いしても、共通の基準で金額が出てくるという訳です。

そして8月末に実施設計が終了し、この期間にAさんがピックアップした施工業者(建設会社や工務店) 数社に図面を渡し、見積もりのお願いをしました。数社から見積もりを取ることを「相見積もり」といいますが、 これをすることで、その中から一番良い施工業者を選択します。すべての見積もりが出てきたところで、 各社の見積もりを表計算ソフトに入力し、あらゆる面から比較検討していきます。ここでキッチリと検討することで 適正な価格で住宅を建てることができます。比較した結果と、各社の業績や評判、実際会って話してみた印象などから総合的に検討し、最終的に1社に絞りこみました。そしてAさん夫婦と僕とで、疑問に思うことは何でも質問し、 納得の上、12月初めにその会社と契約を結ぶことになりました。結局、各社に図面を渡してから施工業者との契約までに 約3ヶ月かかりました。その間に「確認申請」という工事の申請を終わらせました。これは、これから建てる建物が建築基準法などに適合しているかを、工事が始まる前に確認してもらうことです。 これが通らないと建物を建てることができません。工事が始まってからも中間検査、完了検査という検査があります。

話を伺ってから基本設計に7ヶ月、実施設計に2ヶ月、見積もり検討に2ヶ月、契約までに1ヶ月ほどかけました。 打合せは1回目から数えて17回ほど行いました。かなりのスローペースですが、これくらい時間に余裕があると、 より細かいところまで知恵を絞り、検討することができます。多くの人の場合、家を建てるのは一生に一度の 一番大きな買い物だと思います。じっくりコトコト時間をかけて家づくりをすれば、味わい深いシチューのような 住まいができると思いますよ。

設計・工事監理とは

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僕が考える「設計」とは、建て主との対話の中で、住まいに対する思いを拾い上げ、それをお互いに確認し、 整理し、より明確にし、現実化することだと思っています。そして、建物は設計すれば終わりではありません。 建物は工事を行って初めて現実のモノとして存在することになります。そういう意味では工事を監理せずして、 家づくりとは言えません。「工事監理」とは、まさしく設計図どおりに工事が行われているかを監理することなのですが、 しかしそれだけではありません。設計図だけでは伝えきれないこと、実際に作られていく過程でより良い考えが 浮かんでくることもあります。建築現場で施工業者や職人と意見を交わしながら、建物はより濃密につくられていきます。 実際に家をつくるのは人の手、職人の手です。よい家づくりは建て主、設計士、施工業者が関わりを持たずしては成り立ちません。  設計料は工事費のおよそ10%が相場です。高いと思うか、安いと思うかは人それぞれだと思いますが、 設計士としてはそれ以上の利益を建て主に提供していると信じて仕事をしています。

12月半ばに地鎮祭を済ませ、工事は翌年の1月から始まりました。 次回は実際に住んでのお話をAさんご夫婦にインタビューしたいと思います。

Aさんのインタビューに続く

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